幸保が未たりて法螺を吹く 第五章 Who is Tsu-ji-

 

大団円

 奥の部屋からポサポサの頭をかきながら入って宋たのは金田一亮介であった。
 折しも奥の部屋では胃陰調(委員長?)会議が行われており、ネロンガ達が管を巻いていたのであった。
「いやあ、隣の部屋で今日、胃陰調会議やっとったんやけど、何か聞こえて来るのが知っとる内客ばかりやもんで、誰がおるんかと思って」
 美穂がすかさず尋ねた。
「今日は女性会員会議なんです。ね売介さん、さっきから私らが話とった人ってツージーさんなん?あの“べにたに”の?」
「そう、犯人はツージー幸保君」
 亮介はそう一言って自分のセリフにちょっと照れた。
 それを聞いた女性陣もつられて照れたが、ここでも美穂が気を利かす。
「そやけど何でそんなに楽しい人なんやろ」
 美穂の疑間に亮介は待ってましたとばかりにしゃべり出すのであった。
「皆さん、たいへん興味を持たれたと思うんで、そこらへんを説き明かしに来たんです」
 亮介は誰のかもかまわず、手前のピールをぐびっと空けた。
「彼が楽しい人というよりも、彼は人を喜ばせるのが趣味というのが正確な見方でしょうね。
 だから人が喜ぷのであれば、他人の車でも洗うし、料理も作るし、全て笑顔でサーピスする人間なんです。その中でも愉快なホラ話で人を笑わせるのが得意でしてね。なぜそうなったかは、まず彼の幼少の頃から話をせねばなりません。

てんどう…温泉じゃないよ

 彼は小さい頃よりたいへん優秀で、幼椎園では唯一人自分の名前を漢字で書ける子だったそうです。で、当時から天童と呼ばれていました」
「それ神童の事じゃないですか?」
「いや、天童だそうです。彼自身がそう言っていました」亮介は続ける。
「それで小学校に上がって、ある日突然その名前が書けなくなったそうです」
「えっ、なぜっ。どうしてなんですか?」と思わずルカが叫んだ。
「彼は幸保、幸保と書き続けているうちに、その字体に疑間を持つようになったんです。
 ほら、よくあるでしょう、同じ宇ぱかり頻繁に書いていると本当に“こんな字やったかな”と自信を無くすことが。彼もそうだったんです。そこへ“辛い”の辛という字が頭に入って来た為、それ以来自分の名前をツージー辛保と書き始めたのです。当然天童と呼ばれた彼ですから、テストは満点でしたが、名前の所だけいつもペケをされていたそうです。
 そしてその事を先生が教室で椰楡したんです。いいですか、肝心なのはここにあるんです。その事でみんなに笑われた時、彼はウケたと勘違いしたのですね。全てはそこから始まりました。彼は人を笑わす事に喜びを感じました」
 ふーっと一同がタメ息をつき、安堵感が漂った。
(なるほど、人を笑わせようと話が大きくなり、ホラに発展するのは自然かもしれないな。ましてサービス精神旺盛なツージーさんの事だ)
 売介の謎解きに五人は一様にそう思った。そしてさっきまでのエピソードの数々を微笑ましく思い出していた。
 亮介はそんな満足そうにしている彼女らを見て、また静かに語り出した。

 

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