無頼漢
「あと、もう少しだけ楽しいホラ話集をしておきましょう。高校の時、今からは想像しにくいでしょうが、彼はリーゼントで決めワルをやっていました。
まわりの仲間もそんなのばかりで、そいつらと街に出掛けてはあらゆる物を冷やかして遊んでいたそうです。
ある日そのグルーブはアルブスの少女ハイジの映画看板に目が止まり、一丁笑い飛ばしたろかと映画館に乗り込んだんです。
しかしすっかりその物語に感情移入してしまい、全員大泣きして帰って来たそうです。
またある時は別のワルにからまれて、逆にからみ返し、相手に『(誰が殴ったか)まだ覚えとるか』と言いながら笑顔で殴り続け、『警察には訴えません。あなたの事は忘れました』って言うまで殴る蹴るしたんやそうです。
またある時は学校のバス旅行で奈良公園へ行って、鹿と人にイタズラばかりした為以降彼の高校は奈良公園出入り禁止になったそうです。ホラっぽいでしょう。
それから東京・岐阜での話が最高にホラっぼいのが多く、我々のあいだではそれぞれ“六本本ホラーショー”“やなガセプルース”などと呼んでます。女性向きでないので、ここでは割愛しときますがね。
その後近況に至るわけですが、それは皆さん先ほどから話してみえるようにご存じの事も多いでしょう。
子供を連れて歩いていると、知らないおじいさんから妙に親しまれ、世間話に付き合ったあげくに『おたくは年金いつからもろとんの?』って聞かれたというよく出来た話もあります」
ここまで話が来ると女性達も今や幸福そうな笑顔で聞き入っていた。思い出したといった様子で美穂が言う。
「でもツージーさん、自分のエピソード他人が酒の肴にしているの、いい気持ちするのかなあ」
「それは沈黙の了解をしています」
「それ、暗黙の了解じやないですか」
「いえ、沈黙です。彼自身がそう言ってました」亮介の答えに一同また吹き出した。
「そう、それなら安心して、これからも期待しましょ」と海子が微笑む。
「いやあ、本当にすごい人なんやねえ」と徹子は目を細める。
「アンビリバポー」とルカがふざけ、
「明日ドラ焼き買いに行こかな」と美春が誘いかけると
「私、連れてって。今すごく実物に会ってみたい」と美穂が乗った。
そして今一度みんなで笑った。
こうして女性会員会議の夜は更けて行くのであった。 (了)
この物語はすべてフィクションであり、登場する人物、団体は実在のものとは一切関係ありませんが、使われているエピソードはすべて本当なんですと言い張る人が一人だけいます。
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